現代日本版「メキシコの漁師とMBAコンサルタント」

コピーライターズブログさん(id:MAKINO1121)のこちらの記事へのブコメでは「漁師の方がいい!」「結果が同じなら楽してのんびりのほうがQOL高いよね」「はいはい意識高い高い」「うぜー」みたいな意見が多かったんだけどね。俺、前々からコピーライターさんとは別の理由で、この話に出てくる漁師の生き方は俺には出来ないなって思ってた。そんな俺の思いの丈を反映した「現代日本版・メキシコの漁師とMBAコンサルタント」を書いてみたよ。

現代日本の海岸沿いの小さな村に、MBAをもつアメリカのコンサルタントが訪れた。
ある漁師の船を見ると活きのいい魚が獲れている。

コンサルタントは聞いた。


「いい魚ですね。漁にはどのくらいの時間かかるのですか?」
「そうだな、数時間ってとこだな。」

「まだ日は高いのに、こんなに早く帰ってどうするのですか?」


「妻とのんびりするよ。一緒にシエスタを楽しみ、午後にはギターを弾きながら子供と戯れ、夕暮れにはワインを傾けながら妻と会話を楽しみ、それで、寝ちまうよ。」

それを聞いてコンサルタントはさらに質問をした。
「なぜもう少し頑張って漁をしないのですか?」

漁師は聞き返した。

「どうして?」と。

「もっと漁をすれば、もっと魚が釣れる。それを売れば、もっと多くの金が手に入り、大きな船が買える。そしたら人を雇って、もっと大きな利益がでる。」

「それで?」と漁師は聴く。


コンサルタントは答える。

「まず子どもの教育費に備えます。高等教育を受けさせるには最低数百万必要です。子どもも漁師にするから必要ない?本人も漁師になりたいって言ってるですって?今はそうかもしれませんが、成長して社会のいろいろなことを知ると他にやりたいことが出てくるかも知れません。大学を出ていれば選択肢を狭めずに済みます。本人の努力と能力次第では未来が大きく広がります。そのとき漁師になりたければなればいい。でも大学を出たことはムダにはなりません。お子さんが学びたいと言ったときに応えられるだけの貯蓄はしておいたほうがいい。それに下のお子さんは女の子ですよね。漁師にはなれませんが海女さんにでもしますか?それにしたって「美しすぎる海女さん。実は東大出官僚あがりのスーパーウーマンだった!」なんて最高じゃないですか。出口戦略よりどりみどりで人生バラ色ハッピーですよ。女の子でも高等教育を受けたほうがいいことに変わりはありません。さらに老後はどうします?漁師なら国民年金だと思いますが国民年金の支給額は年80万円弱で今後も少しずつ減らされていきます。個人事業主には定年がないという理由で、一生働き続けることが前提になっているんです。厚生年金のサラリーマンとの大きな違いです。一生健康で漁師が続けられればいいですが、怪我や病気をしても生活が破綻しないための蓄えは健康でたくさん稼げる今しかできません。蓄えがなくなったらそんときゃ死ぬからいいよって言う人をブコメでもときどき見かけますが、そう都合よく死ねませんし、自殺ともなると周りや残された遺族に多大な負担をかけますから絶対にやめてくださいね。それでも自分の意思ならまだ仕方ないという考え方もありますが、ボケや寝たきりで自殺すらできない人だってたくさんいるんです。老後の蓄えは大事です。それからお住まい。さきほど拝見しましたが、だいぶ老朽化が進んでいて10年後、少なくとも20年後には建て替えが必要になります。地震津波への備えも十分とは言えません。こちらへの手当も早急に必要です。いいですか、まとめると教育費、老後生活費、住居費への備えをしてくださいということです。この3つは人生の3大支出と言われていて備えには計画性が必要です。しかしながらその日暮らしではあまり意識する機会がなく、いざというときに慌てたり既に手遅れだったりするケースが往々にしてあるのです。お話したように、将来のことを少し考えれば日々の収入から貯蓄しておかないといけないのは明白です。都会のサラリーマンはあくせく働いてあなたから見ればつまらない人生に見えるかもしれませんが、厚生年金に入っているのでひとまず老後の蓄えはあなたより少なくてもなんとかなりますし、それなりの会社なら退職金も数百万から千万単位でもらえます。教育費にしても都会なら大学さえ選べば実家から通えるので4年間の仕送り数百万が浮きます。住居も少なくとも死ぬまでは安全に暮らせるくらいの耐久性を備えたマンションが手頃な価格で手に入ります。駅近など立地がよければ築30年でも1千万で売れるので、老後はサービス付き高齢者用住宅に夫婦で入居するというオプションも持てる。たしかにシエスタもできず残業もありますが、その中で家族との時間を大切にして幸せに暮らしている人も大勢います。今の生活だけを比較するなら、あなたは都会のサラリーマンよりもよほど悠々自適で充実しているとお思いでしょうが、その先に待っている将来は、自身が一生健康で漁師を続けられるという幸運の上にしか成り立ちません。息子さんの将来も同じです。あなたは幸せな生涯を送られたお父様と同じ道を歩んでいるから自分も大丈夫だとお思いかもしれませんが、お父様は65歳でなくなられてますね?当時としては平均的な寿命だと思いますが、あなたはお父様より20年長生きするんですよ?息子さんはさらに10年〜15年長生きする可能性が高いです。親の世代と同じことをしてるから自分も安心という考えは成り立ちません。そんな切羽詰まったゆとりのない人生はゴメンだ?そうおっしゃいますが、人類史上なにも考えずのんびり暮らして60年〜100年の人生をまっとうできた時代なんて存在しません。平均寿命が30歳〜50歳という時代が長く続いてたんです。毎日食うや食わずで乳幼児や子どもが死ぬのは当り前、40歳になれば長老と呼ばれる。そんな時代と比べれば今ははるかに健康的で、今日明日の生命の危険も食べ物の不安もなく恵まれた時代です。その分、長い老後をいかに過ごすかという新しい課題に直面していて国も制度も追い付いていないのが現代社会です。ここを勘違いしてはいけません。将来不安が大きい現代日本は不幸な国だという言説をときに見かけますが、今日明日の差し迫った生命や安全の不安が、将来の緩やかな生活の不安へと先送りになっただけなんです。余談ですが世界に先駆けて超高齢化社会を迎えている日本の行く末を、自国の未来と照らしあわせて全世界が注目しています。長生きしてしまうリスク、「長生きリスク」という人類がはじめて出会うリスクの最前線に我々は立っているのです。いずれにしても80年の人生を一家揃って何も考えずのんびり大過なく過ごせるなどという社会はこれまでもありませんでしたし、今もありません。我々が頑張ればひょっとしたら孫やひ孫の世代にはそのような社会が実現できるかもしれない、その程度の話です。余談は以上です。悪いことは言いません。いまなら間に合います。ご自身や奥さんのため、お子さんのために、もっと働いて人生の3大支出への備えを今すぐはじめるべきです。」

日本でも海外でも一緒 

現代日本とは書いたけど、文中で日本が世界から注目されてると書いたように、OECD各国では程度の差こそあれ、いずれ似たような状況になるものと思われるよ。

同じ意見少ねーーーー!

んで、俺と似たような意見かなというのが id:worth_of_the_kibidango さんただひとりってのにも大層驚かされた。

曰く「俺の理解は少し違う。漁師の生活は風邪をひいて魚取れなければ餓死するので幸せでは無い。富を得て、生活の安定を担保することで、漁師と次元の違う幸福が得られるのである。漁師はその日暮らしのオッサンと一緒。」

そうだよねという感じ。MBAIPOな価値観が気に食わないからといって、漁師の生活いいじゃん!と短絡しては危険だ。両者の結果は同じに見えて実のところ全然違う。今はともかく将来において悠々自適なのはシエスタ漁師とIPO漁師のどちらだろうか?

シエスタ漁師」vs「MBA de IPO

っていうようにどっちがいいかって考え始めちゃうと価値観の問題なので人それぞれで良いよね、としか言えない。ただしどんな人生を歩むとしても、現代社会で生活している限りは、今を楽しむという短期的刹那的視点だけでなく、老後や子どもの教育といった中長期的な視点が必要なことに変わりはないだろう。

JKじゃないんだからさ。「えー?将来???今が楽しければそれでいいじゃん?くっさーーー」みたいなことを、いくら「MBAIPO!」って煽られたからといって、いい年した大人が言ってちゃ恥ずかしいよねっていう当り前の話。