ガジェット通信の年金の記事だけど誤解してるヤツが多いみたいなんでレクチャーしてやるよ

これ。

ブラック企業で働いていたら日本年金機構から差し押さえ予告が来た – ガジェット通信

 

お急ぎの方

急ぐ人は後段の「松沢氏の記事について」以降をとりあえず読んでね。

 

この記者がやるべきこと

この記者はネタのためかなんなのかずいぶん遠回りしてる。

やるべきことは基本的にはひとつで、未納分の国民年金を払うこと。払えないなら免除等の申請をすること。これしかない。

そのうえで、勤めてた会社の給与明細みて厚生年金天引きされてたならネコババされてるってことだからちゃんと返してもらうこと。ついでに立派な犯罪なのでしかるべき処置をとること。

まあネコババって言ってもねんきん定期便とか今回の催告状とかですぐバレちゃうので経営者夜逃げレベルの会社でもなければ、ネコババしないと思うけど。 

 

というわけで、以下はネコババはなかった、単に前の会社が厚生年金未加入だったという前提で書く。ちなみにもうひとつ、会社は厚生年金に加入していたけど払ってなかったというケースもありえるが、その場合は会社に請求が行くはずなので今回のケースには当てはまらない。

 

結局年金払わなくちゃいけないの?納得いかない!

すくなくとも現状では、松沢氏はこの期間の厚生年金、国民年金いずれも払っていないわけなので、その分を払わなければならない。

もちろん厚生年金未加入の会社、それを取り締まらない国、悪いのはこの2者だ。そのせいで松沢氏の元に「国民年金払え」と催告状が来てしまったわけだが、だとしても年金は払わなきゃだめだよねという話。

氏の主張に、より妥当性をもたせるならば「国民年金を払う必要はない」という今の主張とあわせて「会社員期間にさかのぼって厚生年金を払うつもりがある」ということも併記したほうがよかった。実務上そういう手続はできないかもしれないが、主張の筋として今のままだと「国民年金も厚生年金もビタ一文払わない」と受け取られかねず、少し気になった。

 

前の会社で天引きしてくれてたら今こうして払う必要ないのに!年金事務所が責任もってブラック企業に指導徹底してよ!

繰り返すが、まったくそのとおりで会社と国の双方の責任は否定できない。厚生年金未加入の事業者には罰則規定もあるがほぼ適用されたことがない。

国は完全に放置してるわけじゃないけど、年金事務所のおじさんも言っていたように現実として厚生年金未加入の事業者が非常に多い。取り締まろうとしたら公務員の数を増やす必要があるが、いっぽうで「公務員もっと減らせ!」という意見もわりと市民権を得ていたり、国も地方も財政が苦しいということで、公務員は減っていく傾向にある(http://www.jinji.go.jp/booklet/booklet_Part5.pdf)。

また厚生年金加入を厳しくしすぎちゃうと、零細事業者の中には業績が極端に悪化したり倒産したりするケースも多数でてくるだろうということで、是非はともかく厳しい対応には国も及び腰というのが実情だ。

 

こういうイマイチ煮え切らない理由により厚生年金や健康保険に未加入の会社が多いという話なんだけど、もちろん今回の記事以前からさんざん問題になってる。直近だと例えばこんな記事が出てた。ガジェット通信の問題提起が分かりやすく整理されていると思う。

 

厚生年金、350万人未加入の衝撃~老後無年金者増加の懸念、意図的な悪質事業者も | ビジネスジャーナル

 

これによると「まだ民主党政権だった一昨年春、厚労省は厚生年金の保険料を払わない悪質な企業の事業主を、厚生年金保険法違反容疑で警察に告発して、社名を公表すると決めたが、その後、同省が本腰で取り組んでいる様子はみえない」んだって。民主党は失策が酷すぎて印象薄いけど子ども手当といい、必要なことに手を付けていたと思う。その一方で厚労省が面倒臭がってる様子もかいま見える。

 

「社保完」確認しようよ!

未納リスクや将来の年金受給額が減ってしまう(国民年金だと支払額も少ない変わりに受給額も少ない)ことなど、国や企業のせいで不利益を被る可能性がままある状況は納得がいかない。ただ同時に、すぐには如何ともしがたい現実があることは分かっていただけただろうか?

このようななか、労働者として一番カンタンな自衛手段は、求人に「社保完(社保完備)」の記載があることを確認すること。この記載があれば、厚生年金、健康保険、雇用保険に加入してますよーということだ。年金事務所のおじさんもこの点をまず確認してたよね。ま、いまどき虚偽記載もありそうだけどそれはそれで別の話だ。

多くの人が「社保完」と記載のない求人を避けることで、そのような会社が事業継続できなくなってつぶれれば、社会全体の効用も上がる。 

実は「社保完」をしっかり確認していなかったという点も、今回の記事で気になったところだ。社保完が求人条件だったにも関わらず今回の事態を招いたのなら、ケンカの相手は年金事務所ではなく会社ってことになる。まあ「社保完」と書いてあろうがあるまいが社保加入は企業の義務なんだから何故そんなことを確認せにゃならんのだと言われればそれまでだが、確認したほうがよりプラクティカルな動きはできるよね。

ブクマの反応で少し驚いたのが「社保完確認すれば済む話じゃね?」みたいな指摘が存外に少なかったことだ。このことがこのエントリを書く動機のひとつにもなっている。

あとは上で少し触れたねんきん定期便の他に、日本年金機構http://www.nenkin.go.jp/)のサイトでは、これまでの全ての年金記録や、もらえる年金の見込額が確認できる。自衛手段として1年に一度は確認することをおすすめする。特に今後年金の支給額は低下していくことが予想されるので、低下の妥当性を随時チェックし、必要ならば声を上げていくことが求められると思う。

 

余談:いやーそれにしたってもっとなんとかならんの?

2016年からはじまるマイナンバー制度(http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/bangoseido/)は社会保険や税の仕組みを効率化するもので、企業の厚生年金未加入問題の解決にも多少期待できる。法人は法人番号、従業員は個人番号により情報が一元化されるので、未加入企業の抽出や警告などの実務が簡便になるだろうし、効率化してでた余剰人員を、未加入企業への戸別訪問や罰則の適用業務などに充てることもできるだろう。将来的には、はてなブックマーカーが大好きなベーシックインカム導入の基盤にもなりうる。

 

払わなくちゃいけないとしても、あの催告状の威圧的な文面が気に食わん!

まあ確かに…。もっと分かりやすく、もっとマイルドにという意見には同意するとして、ここでライフハック的な(?)小手先知識をひとつお伝えするならば、お役所って書類上はやたら冷徹だしおっかないんだけど、ホントに差押えするかってーとその前段に「何度も何度も何度も催促したし支払い能力もそこそこありそうなのを調査し確認したけど無視されちゃったんで・・・」みたいな相応の理由が必要になってくるのね。一発で差押えなんて基本的にはないよということは覚えておいて損はない。まして国民年金の場合は未納者が相当な数に登っている中で、実際に差押えられたなんてケースは本当に稀。この辺はちょっとググってみると、多少支払い遅れても差押えの心配はほぼないなということが分かってもらえると思う。怖そうな書類が届いても落ち着いて1ヵ月くらい寝かしておくくらいの気持ちでどーんと構えましょう。

 

松沢氏の記事について

元記事は、年金問題への関心を喚起するという意味で有意義だし、企業への指導を徹底すべきというもっともな指摘もいいと思う。しかし一方で「払わなくていいお金を泣き寝入りして払うしかないの?!」とか「支払猶予のない督促がいきなり送られてきてこれはヒドい」といった類のブコメに見られるように、誤解にもとづく年金不信をいたずらに煽るような表現が見られるのが残念だ。

今回の件であれば、「ブラック企業」が社会保険に加入しておらず、年金事務所もそれに対ししかるべき指導をしていないことにフォーカスして、批判するのであれば穏当であった。

また筆者の前の記事をよむと、「ブラック企業」が社保完でないことは筆者自身、働いていた当時から承知のようである。であれば自身が国民年金加入者となることも、国民年金保険料を払う義務があることも理解していたものと思われる。理解していなかったとすれば、記事を書く立場としてはいささか不勉強である。

 

ブクマで見られた誤解について

最後に、目についた誤解をいくつか取り上げてみる。

  • 「なぜ個人には特別催告状なんていう期限猶予もない差押え予告するのに企業には電話だのお手紙だの緩いんだ…」
    →上記のとおり猶予はかなりある。国の肩を持つわけじゃないがスターがいっぱいついてたのでここは強調しておきたい。余談だが、もし記事が「悪質!年金未納者の実態」のような内容だったら逆のバイアスがかかるため「こんな文書じゃ物足りない。払ってる人がバカをみないようもっと厳しく徴収しろ」というブコメがつくんじゃなかろうか。
  • 「これ絶望的だな。この人ライターだから飯の種になるからいいけど一般労働者だったら泣いて支払える限り支払うしかなさそう…?」「それで結局、松沢さんは企業が払わなかった厚生年金を自腹で国民年金として払わなければならないのか否か。」
    →これも最初に書いたとおり厚生年金だろうと国民年金だろうと、いずれか必ず払わなければならない。払わなくて良いはずの金をむしり取られるといった問題は今回生じていない。これもスターが多くついていた。
    ※ただし、本来厚生年金加入期間であるべきところが国民年金加入期間になったため、支払金額が減るかわりに将来の受給額も減ってしまった可能性がある。
  • 「この顛末の続き読みたい。」
    →たぶん大した続きにはならないはず。年金機構としては「払ってね。または免除申請してね」以外のことは言えない。MAXメシウマ状態でせいぜいこのブラック企業とやらの厚生年金ネコババ発覚してドロンとかそのレベル。
  • 「わかりにくいな。加入してるかどうかも分からんのに厚生年金分の支払い催促が被保険者に来たってことなのかな?」
    →冒頭に書いたとおり厚生年金には加入してない。もし厚生年金に加入していたら請求は会社にいく。筆者は国民年金の加入者であり、国民年金の支払催告状が来た。
  • 「年金に関してはもう理解の範疇を超えてる。よく職員と渡り合えるな凄い」
    →ニュースの断片情報を追いかけてる限り包括的な理解は難しい。やさしく解説してるサイトがたくさんあるのでググって欲しい。年金に限らず国民の無理解でまともな政策議論が成り立たないのは極めてもったいない。あきらめたら試合(ry
  • 「年金って納付の履歴追っかけるのも凄い面倒なんだよな。この人よくやるわ。」
    →上記のとおり日本年金機構のサイトやねんきん定期便でカンタンに確認できる。(社保庁時代に年金記録問題に該当する人は除く)
  • 「肝心の「未納期間の負担はだれがするの」が明らかにならぬままなので消化不良感が」
    →専業主婦でない限り国民年金なら本人、厚生年金なら労使折半。ここは議論したり年金事務所に交渉したりするところではない。

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